革という素材には、時間とともに表情を変えていく魅力があります。 使う人の手に馴染み、傷や色の変化さえも「味」として刻まれていく存在です。
今回は、アルズニの原点とも言える「タンニンなめしの厚革」について、 その素材が持つ背景や、私たちの考え方の視点からお話ししていきます。
なぜ、厚い革なのか
アルズニの歴史は、一本のベルトから始まりました。毎日身体に巻き、力を受け止め、酷使されるベルトには、何よりもまず「堅牢さ」が求められます。そのために私たちがたどり着いた答えが、植物の力でじっくりと鞣された、厚い革でした。
この「厚革」という選択は、単に丈夫さを求めるだけではありません。それは、長い時間をかけて持ち主と共に成長し、唯一無二の存在へと育っていく、革本来の魅力を最大限に引き出すための、必然の選択だったのです。効率や生産性とは対極にある、時間と手間を惜しまないものづくりの哲学が、そこにありました。
厚革が持つ、静かな個性
タンニンなめしの厚革が持つ個性は、決して派手なものではありません。むしろ、その魅力は内側に秘められています。
最初は少し硬く、無骨にさえ感じるかもしれません。しかし、使い続けるうちに、それは持ち主の身体の形、使い方、そして時間の経過を記憶し、ゆっくりと馴染んでいきます。表面には深い艶が生まれ、色は深みを増し、時折ついた傷さえも、その革だけが持つ物語の一部として刻まれていくのです。
薄い革にはない、圧倒的な存在感と安心感。そして、使い手と共鳴し、共に成長していく柔軟性。この二つの側面を併せ持つことこそ、私たちが考える厚革の「性格」であり、最大の魅力です。
アルズニと厚革の向き合い方
「変わらない」ための選択
流行が目まぐるしく移り変わる現代において、「変わらないこと」を貫くのは簡単なことではありません。より薄く、軽く、加工しやすい素材が主流となる中で、私たちが厚革にこだわり続ける理由。それは、製品が「使い捨て」になるのではなく、世代を超えて受け継がれるほどの価値を持つものであってほしい、という願いがあるからです。
ベルト屋として始まったアルズニの原点。それは、お客様の人生という長い時間に寄り添い、信頼される「相棒」をつくることでした。その想いを実現するためには、目先の効率性ではなく、長い年月を耐え抜く本質的な強さを持つ、タンニンなめしの厚革が不可欠なのです。
革の声を聴く、ということ
製作の現場では、厚革が持つポテンシャルを最大限に引き出すことを常に考えています。同じ厚革でも、一枚一枚、その硬さや繊維の密度は微妙に異なります。職人たちは、その革が持つ「声」に耳を澄まし、どの部分をベルトに、どの部分を財布に使うべきか、長年の経験と手の感覚だけを頼りに判断します。
私たちは、革の表面を過度に加工して、その個性を消してしまうことはしません。むしろ、生きていた証である自然な風合いを尊重し、手仕事の痕跡をあえて残すことで、製品に温かみと生命感を吹き込みます。それは、これから始まる持ち主との物語のための、大切なプロローグなのです。
使う人に委ねる、という信頼
アルズニの厚革製品は、完成した瞬間がゴールではありません。むしろ、そこからが本当のスタートです。
最初は硬く感じる革が、どのように柔らかく馴染んでいくのか。色は、どのような深みを見せるのか。その答えは、私たち作り手にも分かりません。その最後の仕上げは、製品を日々使ってくださるお客様自身に委ねられています。
使い手が時間をかけて育てることで、初めて完成する。私たちは、お客様との間にそのような信頼関係があるからこそ、自信を持って厚革という素材を使い続けることができるのです。
まとめ
タンニンなめしの厚革は、即座にその価値が伝わる素材ではないかもしれません。しかし、時間をかけて向き合うことで、その奥深い魅力が静かに立ち上がってきます。
アルズニは、これからも、その無骨で、正直で、時間と共に美しさを増す厚革という素材と真摯に向き合いながら、ものづくりを続けていきます。