ALZUNI BLOG
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センザンコウ革:失われゆく鎧の記憶

革という素材には、時間とともに表情を変えていく魅力があります。 使う人の手に馴染み、傷や色の変化さえも「味」として刻まれていく存在です。

今回は、数ある革の中でも、最も希少で、そして最も悲しい物語を背負った「センザンコウ革」について、その素材が持つ背景や、私たちがこの失われゆく生命の記憶とどう向き合っているのかをお話ししていきます。

なぜ、幻の革と呼ばれるのか

センザンコウは、全身を硬い鱗で覆われた、非常に珍しい哺乳類です。その鱗は、人間の爪と同じケラチンでできており、外敵から身を守るための、完璧な鎧の役割を果たします。しかし、皮肉なことに、この美しい鎧が、彼らを絶滅の危機へと追いやる原因となってしまいました。

現在、センザンコウはワシントン条約(CITES)によって国際的な商業取引が全面的に禁止されており、その革製品が市場に出回ることは、もはやありません。アルズニが過去に扱っていたセンザンコウ革も、すべて条約で規制される以前に、正規の手続きを経て輸入された、極めて貴重なストックです。私たちがこの革を「幻の革」と呼ぶのは、その希少性だけでなく、二度と手に入れることができない、失われた生命の記憶そのものであるからです。

センザンコウ革だけが持つ、太古の意匠

センザンコウ革の個性は、その松かさのように重なり合った、美しい鱗の形状にあります。一枚一枚の鱗は、まるで丁寧に磨き上げられたべっ甲細工のようであり、光の角度によって、深い飴色から黄金色へと、その表情を変化させます。

手に取ると、その滑らかで、ひんやりとした感触に驚かされるでしょう。それは、他のどんな革とも違う、無機物と有機物の中間のような、不思議な質感です。この太古の地球を思わせるような、荘厳で、どこか懐かしい意匠。それこそが、センザンコウ革が持つ、唯一無二の魅力なのです。

アルズニとセンザンコウ革の向き合い方

失われた生命への、鎮魂と継承

私たちが、今、この貴重なセンザンコウ革を製品にすることは、単なるものづくり以上の意味を持ちます。それは、人間のエゴによって失われてしまった生命への、鎮魂の祈りです。

この美しい鱗の一枚一枚に、私たちは、彼らが生きていた森の記憶や、絶滅の危機に瀕した悲しい歴史を重ね合わせます。そして、その記憶を、製品という新たな形に変え、永く大切にしてくれる人の元へ届けること。それが、この幻の革を扱う私たちにできる、唯一の償いであり、未来への継承であると考えています。

鎧の記憶を、傷つけないように

製作の現場では、センザンコウの鱗が持つ、自然な重なりや流れを、いかにして損なわずに製品にするかを常に考えています。鱗は非常に硬く、加工には細心の注意が必要です。職人たちは、その一枚一枚の鱗を傷つけないように、まるでパズルを組み立てるかのように、慎重に革を裁断し、縫い合わせていきます。

私たちが目指すのは、完璧に均一な製品を作ることではありません。鱗の大きさの不揃いや、わずかな傷。それらすべてを、その個体が生きてきた証として受け入れ、その「鎧の記憶」を、そのままの形で持ち主に届けたいのです。

物語を語り継ぐ、ということ

センザンコウ革の製品を手にすることは、一つの美しい物語を、未来へと語り継ぐ役割を担うことでもあります。

この製品を見るたびに、人々は、かつて地球上に、このような美しい鱗を持つ生き物がいたことを知るでしょう。そして、なぜ彼らが姿を消さなければならなかったのかを、考えるきっかけになるかもしれません。アルズニの製品が、単なる装飾品としてではなく、環境保護や生命の尊厳について考えるための、小さなきっかけとなること。それが、私たち作り手の、切なる願いです。

まとめ

センザンコウ革は、二度と手に入れることのできない、幻の革です。それは、美しいだけでなく、生命の尊厳という、重い問いを私たちに投げかけます。

アルズニは、この失われた生命の記憶と真摯に向き合い、その物語を未来へ語り継ぐという責任を胸に、これからも、ものづくりを続けていきます。

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