シルバーという素材には、月光を思わせる、静かで知的な輝きがあります。 その凛とした光は、時として、持ち主の心の内を映し出す鏡のようでもあります。
今回は、アルズニが最も信頼し、愛用している素材である「スターリングシルバー」について、 なぜこの「925」という数字が、これほどまでに世界中で愛されているのか、その理由をお話ししていきます。
なぜ、100%ではいけないのか
「純銀」や「SV1000」と聞くと、最も価値が高く、優れた素材のように思えるかもしれません。しかし、純度100%のシルバーは、実は非常に柔らかく、少しの力で曲がったり、傷ついたりしてしまいます。そのため、日常的に身につけるアクセサリーとしては、あまり実用的とは言えません。
そこで生まれたのが、スターリングシルバーです。これは、シルバーの含有率を92.5%とし、残りの7.5%に銅などの他の金属(割金)を加えた合金です。この7.5%の「混ぜもの」こそが、シルバーに実用的な強度と耐久性を与え、何世紀にもわたってアクセサリーとして愛用されることを可能にした、偉大な発明なのです。それは、完璧な純粋さよりも、他者を受け入れることで生まれる「しなやかな強さ」の価値を、私たちに教えてくれているようです。
「スターリング」という言葉に込められた、信頼の歴史
「スターリング(Sterling)」という言葉の語源には諸説ありますが、一説には、中世イギリスの銀貨「スターリングペニー」に由来すると言われています。この銀貨は、その品位の高さと信頼性から、ヨーロッパ全土で広く流通しました。「スターリング」という言葉自体が、「本物」や「信頼できる」といった意味を持つようになったのです。
13世紀のイギリスでは、法によって銀製品の品位が「92.5%以上」と定められ、これがスターリングシルバーの公式な基準となりました。以来、この「925」という刻印は、単なる品位表示ではなく、何世紀にもわたって受け継がれてきた、品質と信頼の証として、世界中の人々に認識されています。アルズニがスターリングシルバーにこだわるのは、その美しさや加工のしやすさだけでなく、この長い歴史に裏打ちされた「誠実さ」に、深く共感しているからです。
アルズニとスターリングシルバーの向き合い方
素材の「声」を、聴く
私たちは、スターリングシルバーを、単なる金属の塊としてではなく、個性を持った「対話の相手」として捉えています。同じシルバー925でも、その日の気温や湿度、職人の体調によって、その表情は微妙に変化します。熱を加えた時の溶け方、ヤスリをかけた時の削れ具合、タガネを打ち込んだ時の反発力。職人たちは、その一つ一つの「声」に耳を澄まし、素材が最も心地よく、最も美しくなる方法を探りながら、形を創り上げていきます。
それは、まるで気難しい芸術家をなだめ、すかし、最高のパフォーマンスを引き出す指揮者のようです。素材のポテンシャルを最大限に引き出すこと。それが、私たちのものづくりの原点です。
7.5%の「可能性」を、デザインする
スターリングシルバーに含まれる7.5%の割金は、強度を高めるだけでなく、デザインの幅を広げる「可能性」も与えてくれます。例えば、アルズニが得意とする「燻し(いぶし)」加工。これは、割金として含まれる銅が、硫黄と反応することで生まれる、美しい黒色です。
この黒い陰影があるからこそ、シルバーの輝きはより一層際立ち、デザインに立体感と深みが生まれます。もし、これが純銀であれば、このような豊かな表情を生み出すことはできません。私たちは、この7.5%という数字の中に、単なる不純物ではなく、デザインの可能性を広げてくれる、創造的な「余白」を見出しているのです。
持ち主と共に、変化する「誠実さ」
スターリングシルバーのもう一つの魅力は、持ち主と共に、正直に、ゆっくりと変化していく点にあります。空気中の成分や、持ち主の皮脂に反応して、少しずつ黒ずんでいく。それは、決して劣化ではなく、そのアクセサリーが、持ち主と同じ時間を生きている証です。
そして、専用のクロスで磨けば、いつでも元の美しい輝きを取り戻すことができる。この「可逆性」こそ、スターリングシルバーの誠実さの表れです。変化を受け入れつつも、その本質は決して失われない。持ち主が望めば、いつでも原点に立ち返ることができる。そんな懐の深さが、私たちがスターリングシルバーを愛してやまない理由なのです。
まとめ
スターリングシルバーは、92.5%の純粋さと、7.5%の強さ、そして何世紀にもわたる信頼の歴史が融合した、奇跡の合金です。その輝きは、誠実で、正直で、そしていつでも持ち主の心に応えてくれます。
アルズニは、これからも、このスターリングシルバーという素晴らしい素材への敬意を忘れず、その価値を最大限に引き出すものづくりを、続けていきます。